映画体験として明確に新しい。3D、60fpsの『ジェミニマン』は「撮影現場をのぞいているような感覚」だった

そこにウィル・スミスの実像がある。一度は見ておくべき。

例えば金曜日の夜の食卓で、テレビで俳優が演技しているのをあなたは目にする。大抵の場合、あなたはそれを「ドラマなのか、映画なのか」見分けられるはずだ。ドラマにはドラマらしい映像があり、映画には映画らしい映像がある。この際、映画らしい映像とは何か。アスペクト比?解像度?フレームレート?カラーグレーディング?

環境によってまちまちなので、全てとは言わないけど、多くの場合それは複合的に作用して「映画らしさ」を作っている気がする。映画は常に大衆娯楽の中心であってきた。そして長い間用いられたフォーマットは「映画らしさ」を形作ってきたのです。

同時に、技術が日進月歩で進化しているのもまた事実。テクノロジーの進化が映像表現の広がりを促進してきたことは言うまでもないけれど、ここに「映画体験として明確に新しい」と思える『ジェミニマン』が生まれていた!

東和ピクチャーズ配給、10/25(金)に全国公開された本作は、アン・リー監督のもと、3D+inHFR(イン・ハイフレーム・レート)というカメラ技術をもって撮影されている。

3D+イン・ハイフレーム・レートとは何か。これは、120fps(毎秒120コマ)で撮影された3D映像のことです(ただし、120fpsで上映できる劇場は国内に3館のみ。多くは60fpsで上映されている)。通常の映画は24fpsで撮影されていて、なぜ24fpsが標準のフォーマットかというと、これは歴史的な経緯が大きい。ほとんどの劇場でデジタル上映されている今となっては、ある意味形骸化した慣習とも言えるものの、前述の通りそれは「映画らしさ」に直接的につながっています。

で、ジェミニマンはどうだったか。

60fpsで鑑賞しました。

ストーリーはおばあちゃんの家で深夜に見た、BSの古い映画みたいだった

あまりに見たことあるストーリーすぎるし、アクション映画なのにストーリーの起伏が小さい。クローンが出てくるのも遅ければ、出てきたときの物語的な衝撃にも欠ける。残念ながら2Dでみたら「なんでこの映画を2019年になって」と言っていた気がする…。ただし、このストーリーを、あの画、あのカメラワークで作ってみせたのは素晴らしいと思いました。

今作でウィル・スミスはウィル・スミスと戦う。敵は全身フルCGで作られた若きクローンだ。ラジオではウィル・スミスのギャラの3倍の費用をかけて製作されたと言っていた。これを聞いた時笑ってしまったけど、驚くほど違和感がなかった。今のちょっと変だったな、というシーンがなかったと言えば嘘になるが、明らかにこれまで観てきたフルCGの人間より優れていたと思う。

そいつとウィル・スミスが一画面の中でもみ合ったり、カット割りなしのアクションシーンで戦ったりするのは、まさにCG技術の進化をみせつけられた感覚になった。つまり、ありきたりでどこかで観たストーリーだけど、あの見せ方がされている点においては、新しいのです。

はっきり言って、驚きました。ウィル・スミスの実像がそこにあって、そこで動いている。とても、スクリーンの中の映画とは思えない。

まるで撮影現場をのぞいている感覚

目に入ってくる情報がリアルすぎて、撮影現場をのぞいている感覚になる。映画を見ているんじゃない。ウィル・スミスがそこで演技しているのを見ているのだ!我々はウィル・スミスの質感を感じられる。それは、我々のイメージする「映画」とは全く別の感じ方だ。

ある意味、その「映画」から視覚的にあらゆる意味で離れている。先ほどの例えを変えると、「メイキング映像を観ているみたい」だった。なんなら、アン・リー監督の「はいカット!」の声が聞こえてきてもおかしくない空気感だった。これは本当にそのままの意味で、現実に近づきすぎるあまり、映画としてのリアリティに欠けていると強く感じた。自分でもおかしなことを言ってるなと思うけど、そうとしか言えない…。

またこれは憶測だからきっと正確には違うのだけど、あの3D映像であのリアリティにすると、視覚的に被写界深度が不自然になってしまうのだと思った。撮影現場を覗くとき、あなたのその目はF1.0の見え方をするけど、あの3D映像の中では被写界深度が明らかに違和感のある箇所がいくつもあった。デジタル処理されていて、不自然なのだ。そこで演技しているように見えるのに、背景の見え方はおかしいとなると、これはビミョーだよなあ、と。

リアルさは、直接チープさにもつながっていた。そしてこれは挑戦なのであり、今後価値観を揺るがしていくかもしれない、新しい時代が来ているのだと思わされました。「こんなのは映画ではない!」と切り捨ててしまうにはあまりに惜しい、未来の映画を想像させてくれる作品でした。

新しい「映画らしさ」につながっていくかもしれない

今や Netflix や Prime Video など動画ストリーミングサービスが次々と台頭して、映画館に行かなくても、低価格で場所を選ばず映画を見れる時代になった。そのため、自宅での映画体験がメインとなっている層は厚いと思う。

そんな中、音が移動したり音に包み込まれるドルビーアトモスや、超高解像度映像と超密度サウンドのIMAXレーザーなど、「映画館でしか体験できない」テクノロジーが近年新たに導入されてきた。スマホでもパソコンでも映画は見れるけれど、大きなスクリーンと柔らかい座席で、何か特別なものを観に行くために映画館はまだまだ求められ続けるだろう。

今回の3D+iHFRという技術もまたその一つ。映画館でしか体験できない、明確に新しい映画体験。この「体験」というキーワードは、きっとこれからの映画らしさにつながっていくことだと感じます。

120fpsで上映している映画館は日本国内だと、MOVIXさいたま(埼玉)、梅田ブルク7(大阪)、T・ジョイ博多(福岡)の3館のみというのが悲しいけれど、60fpsでも十分見応えのある3D映像でした。テクノロジーと芸術はどこまで交われるのか。この映画を見てどう感じるか、ぜひ体験してみて。それにしても、120fpsでも観たいなあ…。

そこにウィル・スミスの実像がある。一度は見ておくべき。

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